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「人生奪われた」…松橋事件再審無罪 逮捕から34年「検証を」 : 国内 - 読売新聞

 逮捕から34年を経て、ようやく冤罪えんざいが晴らされた。1985年に熊本県で起きた松橋まつばせ事件で、28日に熊本地裁が宮田浩喜こうきさん(85)に言い渡した再審無罪判決。認知症などでほぼ寝たきり状態の宮田さんは、長年待ち望んだ名誉回復の場に出廷できなかった。家族や弁護団は「検察や裁判所は、一人の人生を奪った反省と検証をすべきだ」と訴えた。

 「被告人は無罪」

 28日午前10時過ぎ、熊本地裁101号法廷で、溝国みぞくに禎久よしひさ裁判長は、被告不在の法廷で、判決の主文を言い渡した。

 判決理由で、溝国裁判長が「自白に合理的な疑義が生じた」と言及すると、弁護団はその言葉をかみしめるようにうなずいた。検察官は表情を変えずに聞いていた。

 地裁前で弁護士2人が「再審無罪」などと記された紙を掲げると、支援者ら約10人が「宮田さん、おめでとう」と歓声を上げ、拍手して喜びを分かち合った。

 溝国裁判長は、2月の再審第1回公判で検察側が請求した証拠の4分の3を採用せず、証拠を大幅に限定していた。「事件から30年経過しており、速やかに判決を出すのが最も適当と判断した」と述べ、言い渡しは約10分で終わった。

 弁護団は閉廷後、熊本市の介護施設に入所する宮田さんに無罪判決を報告した。弁護団によると、共同代表の斉藤誠弁護士(東京弁護士会)が、車椅子に乗った宮田さんの手を握り、「無罪ですよ」と何度も繰り返した。宮田さんは手を握りかえし、目を潤ませたという。

 宮田さんの次男・賢浩さん(60)は、1年半前に亡くなった兄のジャケットを着て弁護団の記者会見に出席。「判決まで長すぎた。家族も大変な思いをしてきた」と悔しさをにじませた。

 会見には、大阪市東住吉区の小6女児死亡火災で再審無罪となった青木恵子さん(55)、茨城県で男性が殺害された布川事件で再審無罪となった桜井昌司さん(72)も駆けつけた。青木さんは「宮田さんは、ゆっくり穏やかに過ごしてほしい」とねぎらい、桜井さんは「今回の無罪を『良かった』だけで済ませてはいけない。宮田さんのような冤罪を防ぐため、声を上げ続けなければならない」と話した。

 松橋事件の再審無罪は自白偏重捜査を戒めるとともに、証拠開示の重要性という教訓を改めて突き付けた。再審のあり方と冤罪(えんざい)の検証という点では課題を残した。

 宮田さんは、任意の取り調べが続いた12日後に「自白」したものの、供述内容は変遷した。しかし、捜査当局はその不自然さを重視しなかった。検察側の証拠開示で見つかり、確定判決を覆す決定的な新証拠となったシャツの布片についても、供述と矛盾することを見逃した。自白に頼り、十分な裏付け捜査を尽くさなかった証左と言える。裁判所も自白を唯一の有力証拠として客観証拠を求めず、実刑を確定させた。

 溝国裁判長はこうした問題点の検証より、高齢の宮田さんへの配慮から迅速審理を優先。判決でも「速やかな判決が最も適当」と述べるにとどめた。今回に限っては、やむを得ない事情があったとはいえ、司法のチェック機能を十分に果たせたか、議論の余地は残る。

 捜査当局が事件を検証することはもちろん必要だ。今回のように迅速さが優先され、再審公判の中でできなかったとしても、第三者などが冤罪を検証できる仕組み作りに向け、議論を本格化させるべきだ。(森永健太)

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https://www.yomiuri.co.jp/national/20190328-OYT1T50228/

2019-03-28 06:00:00Z

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